あなたとホワイトウェディングを夢みて
「私はいつもの日替わりランチを下さい」
しかし、専務からの指示で、スタッフは特別メニューのプレートを手渡す。
「私は日替わりランチの食券を買ったの! 今の男性と同じランチを準備して!」
留美が声を荒らげるものだから、配膳スタッフが驚いて豪華なランチを下げて、いつものランチプレートを留美へ渡した。
すると留美は「ありがとう」とにっこり微笑んで言うと、空いている席がないか振り返り見渡そうとすると、食堂にいる社員らの視線を一身に浴びていた。
男性の驚きの顔と、女性の不満そうな顔とが入り混ざる。
(普通にいつもの日替わりランチを貰っただけなのに、何なの?)
異様とも思えるこの雰囲気に、留美が圧倒されそうになると、その威圧感の中心にいた人物と目線が合う。
ハーレムの王子の如きその人物は、留美が尤も嫌うプレイボーイの専務、澤田郁未(さわだ いくみ)だ。三十前の独身だけあって、女子社員の取り巻きが素晴らしい。
その光景を蔑む様な目で見た留美は、彼らから一番離れた食堂の隅へと闊歩していく。
そんな留美を慌てて追いかけた田中は、専務や取り巻きの女子らに睨まれたくなくて俯きながら留美の隣の席へと行く。
「佐伯さん、専務相手に喧嘩売らないでよね」
「先輩、私は普通の日替わりランチのチケットを買って、それを受け取っただけですけど」
席に座った留美はプレートを置くと、両手を合わせて「いただきます」と食事の挨拶をし箸を持つ。相変わらず頑固なところがあると、呆れた田中も箸を手に持って食事を始めた。