あなたとホワイトウェディングを夢みて
そして、留美が出て行った専務室では――
女を口説くのに慣れていた郁未なのに、絶好のチャンスを潰してしまった。
「普通なら俺に見つめられるだけで、女はメロメロなのに……そうならないあの女が異常なんだ……」
留美を口説けなくて少し凹んでいると、そこへタイミング良く携帯電話の着信音が鳴り響く。その着信音は父親専用で、音を聞いただけで郁未は気が滅入る。
仕方なく通話ボタンを押すと、
「やあ~、彼女を口説けたのかなぁ?」
今の光景を覗き見ていたかの様な浮かれた声が聞こえてくる。眉間にしわを寄せた郁未が電話を握りしめた。
「たったの半日で出来る訳ないだろう!」
「良い知らせが聞けない時は年明け早々婚約パーティーだからねぇ。期待しないで待っとるよ、ダーリン」
友人の娘と結婚させたい俊夫としては、郁未の誘惑が失敗する事を期待している。
それが腹立たしい郁未は怒鳴って答える。
「せいぜい期待して待ってて下さいね!」
頭に血が上った郁未は電話を切ると机に乱暴に置いた。
こんな悠長に構えていたら、来年には父親の希望通りの結婚式を挙げなければならなくなる。
「既成事実を作れば親父も文句ないだろうし、あの女を口説く必要もない。女は初めての男には弱いからな」
是が非でも自分の女にするのだと、不敵の笑みを浮かべる。