あなたとホワイトウェディングを夢みて
流石に仕事の話になると田中はいつもの先輩の顔に戻っていく。
しかし、専務と聞くと少々見境が無くなるところが、今日知った留美には少し衝撃だった。
「じゃあ、ちょっと営業部へ行ってきます」
指示書を出した営業部へと向かう留美。
留美が情報処理課を出たのは終業時刻の四十五分くらい前。確認を取るだけなら、この時間でも問題ないだろうと安直に考えていた。
ところが、それが甘かった。
留美が営業部から情報処理課へ戻るまでに要した時間が一時間と十五分。完全に終業時間を過ぎている。
今日中にデータを提出すると言いながら時間をオーバーした。アポも無しに終業時間後の今、専務の部屋へ押しかけるなど論外だ。
「どうしよう……」
念の為に秘書課へ確認を取り、もし専務のお許しがあれば今からデータを提出したいと思っていた。ところが、秘書が言うには『先ほど出られました』と、専務は既に得意先との打ち合わせに出かけてしまった後だった。
『先ほど』という事は、今日中に提出すると留美の言葉を信じて、終業時刻までは社内にいたのだろうかと勘ぐる。
けれど、今更そんな事を考えても時間を守れなかった自分に非がある。
だが、後三十分待ってくれたら、データを提出出来たのにと留美は少しガッカリする。