あなたとホワイトウェディングを夢みて
いつもなら、顔を見合わせる度に睨み合っていた。口を開けばいつもお互いに罵り合いに近い状態になる。そして、少しでも相手を貶めるような欠点を探し出しては喧嘩を売る。
なのに、今、この車内にいる二人は、言葉もかけられないほどにお互いを意識している状態だ。
郁未は事故を起こさないようにと、運転に集中するあまり会話にならない。しかし、本当は、留美の妖艶な姿に気が散って運転に集中出来ず困っている。
そして、助手席に乗る留美もまた、平静を装っていても、高慢な態度を見せながら時には優しい瞳で見つめる郁未に、胸の鼓動が高まりかける言葉さえ見つからない。
車内は静まり返る。
運転する郁未のハンドル捌きと、二人の呼吸する音だけが車内に響き、妙な緊張感が二人の間で漂う。
結局、目的地へ到着するまで、二人は一言も喋らなかった。
ホテルに着くと、運転だけで疲労感に襲われた郁未は、エントランス前に車を停め、ハンドルに頭を乗せ大きく深呼吸する。
『大丈夫だ』と心の中で何度も唱えて気分を落ち着かせた。そして、運転席から降りた郁未が助手席ドアの前までやって来る。
すると、ホテルのエントランスにいたスタッフが助手席ドアの前へ来た。郁未より先にドアを開けようとすると、郁未にギロッと睨まれスタッフは後ずさりを余儀なくされる。