まるでキャラメルのように
夏の終わりの夜風を感じながら飲むビールは苦かった。だから、ゴクゴク飲んだ。
それでも苦しみは止まらずに、噎せた。
「本当は苦手なんだろ、アルコール」
喉を撫でるような甘い声がして振り返ると、そこにはお隣さんがいた。
何度か見かけてはいたけど、名前も知らない。多分、私より年下だろう。なんて、なんとなく雰囲気でそう思うだけ。星の見えない都会って儚いものだ。
「はい、交換」
お隣さんは、私の手から缶ビールを取ると黄色い箱をくれた。
それはキャラメル。
銀色の紙を剥がし、口に入れると、固まっていた心が柔らかくなり、いつの間にか罪悪感も溶けていた。
まるでキャラメルのように。
「俺、森田湊都」
「……私、広瀬絢香です」
キャラメルがさせてくれた自己紹介。
初めて向かい合った湊都さんの瞳はキャラメル色で、私の漆黒の瞳がそれを求めていると高鳴る胸の鼓動が示していた。
うまく生きられなくてもいい。今を精一杯生きていきたい。心からそう思う。かけがえのない日常に出逢えたから。
【まるでキャラメルのように*END*】