狼上司の不条理な求愛 -Get addicted to my love-
雑踏の中をしばらく歩くと、彼の知っている店に入る。

毎日やり取りをしているから、彼の興味はよく分かる。
もともとサービス精神旺盛な私は、ずっとオドけて喋り続けて、彼はよく笑ってくれた。

「あ~、赤野さんはやっぱり楽しいね。いつまでも話してたいな」

帰り際、“実は少し弱り気味だったんだ”と打ち明けた彼は、そう言ってまた笑ってくれた。
「私も…その…楽しいです」
酔い心地でそう呟くと、ポーっとなっている私に、フッと笑って手を差し出す。 

ためらわず、私はその手を取った。

そう。
大神カチョーと一緒に歩いた去年の冬から、私はずっと考えていた。

イイ歳をしていつまでも、手を繋ぐくらいで動揺してちゃあチト情けない。

早く立派な “大人のオンナ” にならなくちゃ。

でないと私は……いつまでたっても追い付けない。

彼はそれから、夜の10時には私の家の前までキチンと送ってきてくれた。

「ごめんね、すっかり遅くなっちゃって……」
「ううん、送ってくれてありがとう」

私が階段を上がろうとした時、
「あ、赤野さん。ちょっと……」
彼が私を呼び止めた。

「はい?」
ほろ酔い加減で気分よく、5段目からエイっと飛び降りると、勢い余って彼に向かってヨロけてしまう。 

「おっと、大丈夫?」
彼は、私をしっかりと抱き止めた。

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