狼上司の不条理な求愛 -Get addicted to my love-
それからの道中、カチョーは余計な話はいっさいせずに、淡々と仕事の指示だけをした。
冷淡な横顔に無感情な眼差しは
“あの話は一切するな” という無言の圧力。
 
私にだって最低限の意地はある。

だから私もそれからの挨拶回りは、笑顔を浮かべて頑張った。



最後の1社をようやく終えて(例の手土産指定の社長さん。ヒドく話好きで1時間近くも喋っていた)、車に戻った時だった。
 
シートベルトを締めた彼は、優しい声でポツリと言った。

「もういいよ」
「は……い?」

目尻を下げて、哀しげな微笑を私に投げた。片手にハンドルを握ったまま、私の頭をポンと叩く。
「ガマンさせて悪かったな……もう構わないから」

それだけいうと、カーラジオのボリュームを最大まで上げ、知らんぷりで前を向いた。


全く、今日のカチョーはよく分からない。

私のコト、面倒なヤツだと
怒ってたんじゃなかったのですか?

堪えていた感情は、堰を切ったように溢れ出た。やっぱり私はどうしようもない甘ったれで___

その時

運転席のカチョーのすぐ横で

情けないくらいに大泣きしてしまったんだ。
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