狼上司の不条理な求愛 -Get addicted to my love-
とまあこんな調子でやってきた
仕事納めの前日。


その日も私はカチョー席を意識しつつ、ギクシャクと月末の領収書を整えていた。

午後3時、机に忍ばせてあるオヤツのチョコをコッソリ取り出そうとした時だ。

「ささ、こちらへ。どうぞどうぞ…」

いつも鈍重な平田サンが、珍しく来客にサッと反応し、入り口まで迎えに行っているのが見えた。

あ…

来客の顔を見て、私は思わず顔を伏せた。まぎれもない研究所の寺田さんが、その上司と連れ立っていたからだ。



真ん中の応接机では、カチョーも入っての打ち合わせが続いている……

気持ちは冷めているとは言え、気まずい事に変わりはない。

なるべくソチラを見ないよう、懸命にパソコンと睨めっこしていたつもりだが、課の真ん中にあるそれは、どうしても目に入ってしまう。

すると、鬱陶しいほどヘコヘコしていた平田さんと目があった。

彼は席を中座すると、ニコニコしながら私の方にやって来た。

「赤野ちゃんゴメン、長引きそうだからお茶出しお願いしてもいい?」

パチンと両手を合わせた平田さんは、返事を待たずに急いで戻った。


「え…あ、あのぅ…」

グズグズとためらう私に気づいて、向かいの三上さんが立ち上がりかけた。

「いいよ、お茶なら俺が…」
「あっ、私やりますからっ」

私は急いで席を立った。
先輩にさせるわけにはいかない。
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