狼上司の不条理な求愛 -Get addicted to my love-
今さっき、
副社長室に呼ばれた大神カチョーが、沈痛な面持ちで課のドアを出ていったところだ。
(いよいよ…か)
(ちぇっ、自分ばっかりいいよなぁ)
彼の異例の昇進話は初の快挙、今や社内では一番の関心事になっている。
事情を知らない皆は、口々に囁きながら嫉妬と羨望の眼差しで彼を見送った。
そんな中でただ1人、やるせない未来を思う私は、チクッと痛んだお腹を押さえた。
例え彼がどんな秘境に飛ばされようとも、私にはきっとシアワセな “結婚生活” が待っている。
だがそれと引き換えに、
彼がこれから浴びるであろう嘲りと失望___
私はいい、ピエロになるのに慣れている。
けれど、常にエリート街道を歩んできた、プライドの高い彼は果たして……どうだろうか。
「赤野さん…大丈夫?顔色悪いけど」
と、水野女史が珍しく眼鏡を取って、心配そうに私を見つめた。
知らなかった。
“家庭教師のtライさん” のようなカッチリ眼鏡を外した彼女は、とってもキレイな瞳をしている。
それを聞いて、大声で噂話に混じっていた三上さんも、神妙な顔つきで席に戻ってきた。