狼上司の不条理な求愛 -Get addicted to my love-
「でもねえ。
赤野サンも打たれ強いというか、コタえてないというか……
普通あそこまで怒鳴られたら、病みそうなものだけどね」

「ハハハ…」

山と積まれた受発注書の表面だけを撫でながら、私は力なく笑った。

私の真正面の席でキラリと眼鏡を光らせているのは、ハイミスの水野女史。

変わり者で、周囲の出来事を黙ってじっと眺めている仙人のような女性(ヒト)で、私がこの課に来るまでは唯一の女子だった。 

ちなみに彼女は、いわゆる『お局様』体質ではなく、面倒見が悪いかわりに、干渉もしない。
その点ではラッキーだった。


「大神クンはキツイからね~…
前の男のコなんて泣いてたもの。それを思えばアナタ強いわ。
案外、いいコンビになるかもね」

ホホホと笑う。

「ひえっ、止めてくださいよ~」
ジョーダンじゃない。

「…大神クンも、女の子にならちょっとは優しくするだろうって話だったんだけどねぇ」

「そんなバカな」

私はブンブンと大きく手を振った。

あのアクマの申し子に
そんな人間らしさがあるものか。

「……まあ、別の意味で危険だって話も……あったんだけどねぇ」

「?」

彼女が手を顎にあてて、独り言のように呟いた言葉の意味を、この時の私はまだ知らなかった。
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