【短編集】きみのうた
01:リバイバル
日の沈み始める繁華街。
人の溢れる交差点で君を見かけた時、僕には声をかけることが出来なかった。
高校を卒業してから、4年の月日が経った。
君は、僕を覚えているだろうか?
休み時間。マンガを読むフリしながら、時々、君のことを見てた。
リバイバル
「………どうしたの?」
一瞬の視線の動きに気が付いたのか、腕にしがみついていた彼女が問いかけてくる。
4年前に片思いしていたあの彼女とは、少しも似ていない。
共通点があるとすれば、邪魔だと言いながらも決して切ろうとしない、長い髪。
「………別に」
視線を彼女に移し、笑む。
「何も、無い」
そう、別に何も無いといえば無い。
ただ人ごみの向こうに、4年前に落とした思い出のカケラが見えただけ。
それは多分きっと、珍しいことじゃない。
………ずっと、忘れたと思っていたのだけれど。
「……ふ~ん?」
納得した様子ではなかったが、彼女はそれ以上追求してこなかった。
そのことに軽く感謝を覚えつつ、ふと、何気なく道の端の立て看板に目をやる。
ソコにあったのは……映画の、リバイバルの宣伝。
少し前に流行っていた、恋愛物語。
彼の周りでも、多くの者たちが観に行っていた。
恋人同士で見ると一生幸せになれるという、ジンクスめいた噂も相まって。
それが、流行っていた、4年前。
1度……たった1度だけ、“彼女”を誘ったことがあった。
『映画?うん、構わないよ』
あの噂を、彼女が知っていたのかは分からない。
ただ、あの時。
射し込み始めた夕日で紅く染まる教室と、彼女の笑顔がとても……眩しくて。
「………そうか、またやるのか……」
無意識に呟いていたその声に、彼女が足を止め、彼の見ている方へと目をやる。
そして傍の立て看板を確認し……
「あ、この映画……懐かしいね。観たことある?」
「……………いや」
屈託無い問いに、軽く首を振る。
そう、結局彼女とは観に行かなかった。
その理由が何なのか……覚えては、いないのだけれど。
「私も、行かなかったんだ……ね、観てこっか?」
そう提案した彼女が、何故だろう。
遠い記憶の“彼女”に、重なって見えた。
全く……似てやしないのに。
「……ん、いや、止めとこう。
今からだと、次の上演まで2時間あるしさ」
そう言うと、彼女は少し考える素振りをした後、
「……そうね。それより、こっちの方なら、始まるのもうすぐだし」
指差したのは、最近流行の恋愛映画。
主演俳優が自分に似ていると彼女は言うが、正直彼にはよく分からない。
けれど……
「ん、こっちを観よう」
頷くと、2人並んで映画館の入り口へと歩き出す。
あの映画を……きっと、彼は一生観ないだろう。
過ぎ去った恋物語に、何かを見つけることなんて出来ないから。
あの時行きたかった場所は、心の奥深くへと沈めておこう。
いつか、忘れるかもしれないけれど。
今は、ただ……
不意に、彼は先程の交差点を振り返る。
「…………」
その唇が、声を漏らすことはなかったけれど。
いつか忘れるとしても……
―――僕は、君が好きでした。
2人が映画館に消えた街中。
その後ろで、茶色い葉を乗せた風が一陣、吹いていた。
人の溢れる交差点で君を見かけた時、僕には声をかけることが出来なかった。
高校を卒業してから、4年の月日が経った。
君は、僕を覚えているだろうか?
休み時間。マンガを読むフリしながら、時々、君のことを見てた。
リバイバル
「………どうしたの?」
一瞬の視線の動きに気が付いたのか、腕にしがみついていた彼女が問いかけてくる。
4年前に片思いしていたあの彼女とは、少しも似ていない。
共通点があるとすれば、邪魔だと言いながらも決して切ろうとしない、長い髪。
「………別に」
視線を彼女に移し、笑む。
「何も、無い」
そう、別に何も無いといえば無い。
ただ人ごみの向こうに、4年前に落とした思い出のカケラが見えただけ。
それは多分きっと、珍しいことじゃない。
………ずっと、忘れたと思っていたのだけれど。
「……ふ~ん?」
納得した様子ではなかったが、彼女はそれ以上追求してこなかった。
そのことに軽く感謝を覚えつつ、ふと、何気なく道の端の立て看板に目をやる。
ソコにあったのは……映画の、リバイバルの宣伝。
少し前に流行っていた、恋愛物語。
彼の周りでも、多くの者たちが観に行っていた。
恋人同士で見ると一生幸せになれるという、ジンクスめいた噂も相まって。
それが、流行っていた、4年前。
1度……たった1度だけ、“彼女”を誘ったことがあった。
『映画?うん、構わないよ』
あの噂を、彼女が知っていたのかは分からない。
ただ、あの時。
射し込み始めた夕日で紅く染まる教室と、彼女の笑顔がとても……眩しくて。
「………そうか、またやるのか……」
無意識に呟いていたその声に、彼女が足を止め、彼の見ている方へと目をやる。
そして傍の立て看板を確認し……
「あ、この映画……懐かしいね。観たことある?」
「……………いや」
屈託無い問いに、軽く首を振る。
そう、結局彼女とは観に行かなかった。
その理由が何なのか……覚えては、いないのだけれど。
「私も、行かなかったんだ……ね、観てこっか?」
そう提案した彼女が、何故だろう。
遠い記憶の“彼女”に、重なって見えた。
全く……似てやしないのに。
「……ん、いや、止めとこう。
今からだと、次の上演まで2時間あるしさ」
そう言うと、彼女は少し考える素振りをした後、
「……そうね。それより、こっちの方なら、始まるのもうすぐだし」
指差したのは、最近流行の恋愛映画。
主演俳優が自分に似ていると彼女は言うが、正直彼にはよく分からない。
けれど……
「ん、こっちを観よう」
頷くと、2人並んで映画館の入り口へと歩き出す。
あの映画を……きっと、彼は一生観ないだろう。
過ぎ去った恋物語に、何かを見つけることなんて出来ないから。
あの時行きたかった場所は、心の奥深くへと沈めておこう。
いつか、忘れるかもしれないけれど。
今は、ただ……
不意に、彼は先程の交差点を振り返る。
「…………」
その唇が、声を漏らすことはなかったけれど。
いつか忘れるとしても……
―――僕は、君が好きでした。
2人が映画館に消えた街中。
その後ろで、茶色い葉を乗せた風が一陣、吹いていた。