君色キャンバス
流れる時間がやたらもやもやしてした。
その原因はきっと一之瀬君のせいだ。
今までは自分だけで書いてきた詩が、いきなり広がって大きく変化した。
その変化が私にはまだ理解ができていない。
一之瀬君の言葉は単純に嬉しいとは思ったけれど、逆に不安にもさせた。
あの詩がみんなの目に触れてるという現実を直に伝えてくれたから。
* * *
部室に着き、いつものように扉を開けると、一之瀬君が居た。
そうだった。
今日から一之瀬君は文芸部員。
こんな何もない部活動に入部したいだなて、昨日は的外れなことを言って脱力させられたけど、本当に入部したんだ。
「中野」
そう呼ばれて、思わず「はいっ」と声が裏返る。
その姿にクスッと笑う。
何だか気恥ずかしかった。
「お前の詩、何となく絵にしたくなってさ。モノクロだけど、どう思う?」
そう言って見せられた絵は本当に上手だった。
思わず言葉を失うほど。
自分が憧れ続けた風景そのものを、一之瀬君は表現してくれていた。
食い入る様に見つめてしまう。
「……やっぱり、違った?」
「ううん! そんな事ない!! 凄い上手だよ! どうやったらそんな風に描けるの?!」
一之瀬君は少し照れていた。
その姿に思わず自分も照れた。
勢いで言ってしまったけど、もしかしたらとんでもなく恥ずかしい言葉を発してしまっていたのかも。
でもそう思った瞬間一之瀬君が口を開いた。
「俺さ、ずっと憧れてたんだ。空に、自由に。中野が見せてくれた詩には俺の憧れが入っていて、表現したくなっただけ。ほんと、ありがとな」
そう言ってまた照れた。
私も素直にその言葉を受け止める。
「ありがとう」
その言葉が、今の全てだった。