君色キャンバス

 血相を変えて俺を見るなり、俺の胸に中野が飛び込んできた。

 
 中野の全身は震えていた。

 しばらく俺は中野を抱き締め続けた。


 抱き締めてる間、今までの中野との出逢いが走馬灯のように溢れ出し、何かがゆっくりと、まるで風のように流れている。

 
 そして中野は俺からゆっくり離れると、微笑みながら、

「ありがとう」

 と言った。


 
 その瞬間、俺はもう何もかもが中野に奪われて、そして体全身が君だけを求めていた。

 ぐっと拳を握り締め、俺は今の感情を殺し、


「俺も、ありがとう」

 と、言った。


 言葉がこんなにも足りないと感じたことはなかった。

 
 君に言いたい言葉はこんな言葉じゃ、全然足りない。

 
 ありがとうを越せる言葉を俺の中では見出せない。


 君に今、伝えたいのに――




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