君色キャンバス

 ぎゅっと鍵を握りしめる。

 そして私は前を見る。


 相変わらずなんにも変わりもなさそうな日常。

 それでも……私はここで“生きている”


 
 ねぇ一之瀬君、私、元気だよ?

 こうやって微笑っているでしょう?


 彼方とのあの分岐点に立ち、時折振り返って見るの。

 
 そしたら私の全てが思い出の中で輝いて、暖かく“今”を暖かい光に包み込まれている気持ちなるんだ。


 手から今までの想いが溢れて、すくえそうなほど。

 
「……好き」

 私は一之瀬君がくれた鍵に軽くそっと唇で触れる。


 そして唇を離すと、私はまた現実に引き戻される。


 

 今日から、高校2年が幕を開ける。

 ソメイヨシノの桜の木は去年と変わらずキレイに誇らしく咲いていた。

 初めて一之瀬君が見せてくれた絵の桜の木と重なった。




* * *

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