君色キャンバス
菜穂はがしっと私の肩に手を置くと、そのまま新しい教室へと私を強引に引き入れた。
教室に入ってすぐに菜穂はキョロキョロと辺りを見渡すと、
「――はぁ……、今年もイケメンいなさそ~~」
「え? 菜穂付き合ってる人いたよね? 別にイケメン探さなくてもいいじゃん」
「何言ってるの!! カッコいい人は1年間の目の保養になるでしょー。
彼氏は彼氏、イケメンはイケメン」
菜穂は180度くまなく目を光らせて探しているようだけど、このクラスは私が見たってカッコいい人なんていなさそう。
まして菜穂が満足するようなイケメンは到底見つかりそうもない。
「はぁ~~、今思うと一之瀬君ってカッコ良かったよね。
テレビで目にするようになってから、見違えるほど好青年って感じでさ……。
クラスにいる時は空気だったのに」
“一之瀬君”という名前だけでも、耳にするとドキッとする。
そして今の一之瀬君は菜穂の言うとおり、カッコ良くなった。
髪を整えたからだとか、
ぼけっとしている印象がなくなったとか、
そんな容姿に関わることよりも、やっぱり一之瀬君自身が好きな事に一生懸命になっているからこそ、カッコよく映るんだと思う。
……でも。
テレビではなんとなく一之瀬君が作られてるようにしか見えないのが、私にとっては気になる所。
やっぱり、逢いたい。
テレビの中にいる一之瀬君じゃなくて、目の前にいる一之瀬君に。