君色キャンバス

 自分でも分かってるんだ、ほんとはね。

 逢いたいなんて思っちゃいけないことくらい。


 私とはもう道が逸れてるのに、いまだにひきずってる。


 逢いたくて、逢いたくて、逢いたくて――。


 でも、“逢えない”。


「私……もう、いいや」

「へっ?」


「一之瀬君のこと、忘れる」


 菜穂にわざと笑って見せる。

 菜穂は私を驚いた表情で見つめていたけれど、しだいにその表情は変わっていって。


 お互い笑顔になる。


 

 思い出す度に胸が痛くなるくらいなら、忘れよう。

 
 どんなに手を伸ばしても、テレビの中にいる一之瀬君を見ても、それは“幻想”。

 作られたものでしかない。

 
 ずうっとひきずるよりも、今を信じよう。

 ……その方が少しはこの満たされない想いが、満たされるから。
< 110 / 210 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop