君色キャンバス
揺れる過去
――朝が来る――
時計の針は8時15分を指し示した頃、油絵の独特の匂いで目が覚めた。
いつ、寝てしまったんだろう。
深夜遅くまで絵を描いていたせいか、昨日の記憶が曖昧になっている。
でも俺の体を覆いつくすキャンバスは、確実に完成へと近づいていた。
榊原さんがかけてくれてくれたと思えるタオルケットをのけて、再び絵にとりかかろうとしたとき、榊原さんがコーヒーを淹れたコップを差し出したので、ひとまず受け取る。
「おはよう」
「おはようございます」
沈黙が走る。
大体いつも榊原さんはこう。
俺の絵を見るときは必ず何分間かの沈黙が走る。
その時の表情が激しい感情を裏に隠しているかのように思えて、気が抜けない。
朝独特の眠気がこの瞬間で一気に消えてしまう。