君色キャンバス
声に出さず、俺は呟いた。
「今まで、ありがとう」と――。
俺なりに精一杯夢を見せてくれた場所だった。
もうここへの未練は残したくない。
「一之瀬君ー―――――!」
――え?
振り返ると、君がいた。
聞き慣れた声と、見慣れた顔。
目と目が重なった瞬間、全ての雑音が消え去った。
まるでこの世界に君と俺しかいないような感覚に陥る。
一歩、一歩互いに歩み寄る。
ある一定の距離になったら足が止まる。
お互い、何もかもが顔を見れば言葉なんかいらなかった。
にこっと中野は微笑むかのように笑うと俺もそれにつられて笑ってしまう。
逢いたいって思ってたのに、いざ逢って見ると何もかもがまるであの位置に戻ったような気がした。