君色キャンバス

 進むために必要なこと。

 その答えがまだ見出せない。


「いいよ、一之瀬君」

「…………え?」


 中野は優しく笑っていた。

 何もかもを見通したかのような表情。


 俺の中ではまだ分からない答えを中野は知っている。


「私、きっと一之瀬君を知った瞬間から恋してた。

 こうやって一之瀬君と一緒にこの光景を共有出来ただけでも私にとっては凄いこと。

 
 だから……いいの、私のことは考えないで」


 何が伝えたいのか解らない。

 中野の中にはある確かな決意が俺には全く理解できない。


 でも手が震えた。

 今、何かを言わなきゃいけないはずなのに。


「私の幸せは一之瀬君が幸せでいてくれることで、それだけでいいの。

 もう、十分だから……。

 
 自分の未来を壊さないで……!」



――『自分の未来を壊さないで……!』


 あの日に遠ざかったものが近づいてくる。

 ずっと、失ってたものが。


 


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