君色キャンバス
一之瀬君が家の鍵穴に鍵を通した。
久しぶりに開いた扉の中は、初めて来た時と変わらない光景が広がっていた。
「なんか、家、埃っぽいな」
「そりゃあここ何ヶ月間か一之瀬君は家にいなかったんだから、埃まみれになってもおかしくはないよ」
「そうだな」
一之瀬君は私に優しく微笑むと、玄関に靴を脱ぎ、そのまま家の奥へと行ってしまった。
一之瀬君の背中を追いつつも、私は玄関に立ち尽くしたまま。
無理もない。
だって今日、私は親に嘘までついて一之瀬君の家に泊まりに来てるんだから。
尋常じゃない心臓の音が、どれだけ私が緊張しているか理解した。
「中野? 何そこに立ってないで入りなよ」
いつも通りの一之瀬君。
その表情に一気に脱力。
どうやら私が予想していた行為は、やっぱり私の憶測でしかなかったみたい。
「よ……よかった」
独り言で言ったつもりだったのに一之瀬君にはばっちり聞こえていたようで、「何が?」と聞き返してきた。
あんな恥ずかしい妄想をしていただんて、口が裂けてもいえない……!
「え、えっと……! 私……、ちょっと考え事してて」
そう言っていた矢先、一之瀬君が急に私に近づいてきた。
段々と迫ってくる距離に再び私は緊張せずにはいられなくなった。
「いいいい、一之瀬君?!」