君色キャンバス
ずっと開けられなかった部屋があった。
そこには父の全てが入っていて、開けるが酷く恐かった。
あの部屋だけは、どんな月日が流れようと二度と開けたくなかった。
だってそこには俺がかつて憧れた父の姿もあったから。
あんなのただの虚像で、偽者。
俺に夢を見せた絵さえも、全部。
そう思い始めたらあの部屋に憎しみさえ覚え始めて吐き気がした。
だから閉じ込めた。
父のアトリエを――。
「まさか……またこの鍵を使うことになるなんてな……」
中野から渡された、俺の家の鍵。
その鍵穴とまったく同じに作られた、父親のアトリエを開く鍵。
この鍵をまた俺の手に返してくれたのは中野だった。
思い返してみると俺をもう一度この世界に引き寄せたのは、中野からだった気がする。