君色キャンバス
中野がいなかったら、あの日常に埋もれている自分でしかなかったはず。
前に進めたのは、中野がいたから。
だから今、描きたいんだ。
中野と目が合う。
目が合うと中野は少し戸惑ってるように見えた。
「……俺はこの先どんな絵描きになろうと、中野にだけは今の俺を覚えていて欲しいんだ!」
口から勝手に出た言葉。
我に返ると無性に恥ずかしくなってきた。
ちらっと中野を見ると、中野は俺の目をじぃっと見つめていた。
その視線に、その表情にどうしようもなく惹き込まれそうになる感覚に陥った。
「私、今までずっと一之瀬君と一緒にいて一つだけ分からない部分があった」
俺と視線が合うなり、いきなり喋り始めた。
「え?」
「一之瀬君を私はちゃんと守れてるのかなって」
「どういう意味だよ」
「だって私……、一之瀬君の側にいても何も役に立てなかった!!
こうやって一緒にいるときだって、一之瀬君は時折ふっと物思いにふけってるときがあるからっ。
まだお父さんのこと……吹っ切れて、ないんでしょ?!」
中野はいつも笑顔だった。
走馬灯に過ぎる記憶に中野は俺に一切の弱さを見せることはなく、ただひたすら前を向いて、純粋に進む姿を見てきた。
だから……きっと俺は何かを勘違いしてる。
「俺は……っ!」