君色キャンバス
『私を……描いて――?』――
そう言ってから軽く1時間が過ぎようとしている。
時計の針を見れば、もう深夜の2時。
いつもならこんな時間なんて起きていない。
きっと布団の中で気楽な夢でも見てるはず。
でも今日は一之瀬君の家に泊まりながら、今は一之瀬君が用意してくれた椅子に腰をかけながら座ってる。
そして“私”を描いてる。
一之瀬君は絵を描くスイッチが入ってるみたいで、私をくまなく見てる。
上から下まで。
私は恥ずかしさを感じつつ、あえて表情には出さない。
今はちょうど私の顔の部分。
目が合っても照れたりする様子はなく、真剣そのもの。
声を発するのも、ちょっと体を動かすのもその視線だけで止められる。
やっぱり一之瀬君は天才。
絵をみなくたって、指先でその動きがもうプロだ。
多分独特の匂いからしてこれは油絵の具っぽいけれど、素人の私からしてみればそれさえもよく分からない。
パレットにのせた絵の具が次から次へと魔法のようにキャンバスにのせられていって、色を変え、今、私を描いてる絵は着実に完成へとめがけて進んでる。