君色キャンバス
 俺の異変に中野は気づいたらしく、心配そうに覗き込んでいた。

 その視線に気づかないフリをして、またスケッチブックを取り出した。

「ちょっと、部室から離れてもいいか?」

「う、うん……」


 今は中野の顔が見れない。

 俺は見ないように、部室から離れ、中野が居た屋上に向かう。

 
 急勾配な階段を上るときに頬をくすぐる、微かな風。
 
 小さな窓からふき抜ける、太陽の光。


 屋上へ向かう、自分の不思議な想い。


「これが中野の世界観……」

 
 終わった世界が、また始まりを魅せる。

 それが中野の感じ方、想い方。


 無理だ。

 俺には到底無理だ。

 感じる世界があまりにも透明で、繊細すぎる。


「一之瀬君っ!!」

 その声に振り返ると、中野だった。

 俺は必死で平静を装う。

 
「どうしたんだよ?」

「余計なお世話かも知れないし、いらない心配かもしれないけど……」

「だから何だよ」

「――元気、出して!」


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