君色キャンバス
 その感情でつかめた。 

 今までの榊原さんの意図が。

 
 ここまでしてまで、俺をとどまらせようとしたんだな――。


 

 記憶に残る、父と母の葬式に榊原さんは参列していた。

 
 親族達が父親が描いた絵で遺した莫大な遺産相続を受けようと躍起になっている頃、榊原さんだけが父と母の並んでいる写真に向かってただ強いまなざしを向けていた。

 
 あの目が俺に向けられたときから、榊原さんに“生きる”ことを選択させられた。


 そして榊原さんも俺を“生かす”ことを決めたに違いない。


 わざと俺に揺さぶりをかけるようなことを言ってきたのは父のしがらみをまだ背負って生きることから離れさそうとした。



 つまりは、過去から俺を卒業させたかった。



 最初から榊原さんは――俺を通して父を追い求めていたんじゃなかった。


「榊原さんは自分を悪役に仕立ててたんですね……」
< 175 / 210 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop