君色キャンバス
目を丸くし、驚いた様子。
榊原さんは元の表情に戻ると、俺の目を黙って真剣に見始めた。
思い出す。
あの時と一緒だ――――……。
榊原さんが持っている“強さ”がこの目に宿っている。
もしかしたら俺がいつだって手にしたいと思う強さは榊原さんが今持っている強さと同じものなのかもしれない。
「……俺はどうやら響を見くびっていたみたいだな……」
「え……?」
「以前の響なら俺の感情が動こうと、何も感じなかった。
それなのに今は俺よりも俺の感情を見抜くなんて……参った」
「そんな風には見えませんけど」
今までされてきた榊原さんの余裕の笑みを真似してみると、吹き出したように笑うもんだからつられて頬が緩んだ。
言葉を進める。
「俺、救われました」
「――は?」
「さっき……北村から話聞いたときは、また裏切られる現実が確実にあったから」
「そうやってまた下に見……」
「でも」
榊原さんの言葉を遮る。
「榊原さんはずっと俺を見てくれていた。
そして誰よりも俺を信じてくれる人がいる。
その現実だけで、十分幸せなんですね。
今ままで生きてきて、この考えに行き着くまで、何十年も要しましたが……」
篠原先生は俺に今を生きることが幸福なことだといっていて、あの時は全く意味が理解できなかったけれど今はその言葉の意味が理解できる。
俺はいつの間にか周りの人に救われていた気がする。
「響、俺の携帯に省吾――お前の父親が死ぬまでに遺したメールがあるんだ。
今のお前なら、見せれそうだから見せてやるよ」