君色キャンバス
 きっと、知らない方がいいことだってあるんだと思う。

 誰かを幸せにする嘘だってあるんだと思う。


 けれど。

 私には北村君をこのまま行かせられない!


「……んでっ!」

「…………」


「奈津のそういうとこ、嫌い」

 
 嫌い、その言葉が胸に刺さる。

 なんとなく自分でも何か言われるだろうなって予想していたけど、こんなにハッキリ言われると傷つく。

 
「なんて、な……。

 俺をあのまま行かせてくれたら、きっと奈津のこと忘れられたのに、なんで止めるんだよ?!

 俺はお前のこと諦めるって、逃してやるって……」


「私は一之瀬君が好き。
 だから北村君の気持ちは受け取れない」

 
 はっきりと、言わなくちゃ。

 曖昧にしたら北村君に失礼だから。


「けどね。北村君は私の…………、

 私の“親友”だからっ!

 ほっとけないよ、そんな顔したまま行かせられない」


 言い終えると、涙が出た。

 
 親友、その言葉を言ったら北村君を傷つけてしまうのが分かっていたし、何より北村君の気持ちを受け取れないことを知っておきながら止めてしまった自分が嫌になる。


「“大切”だから! 北村君は私の中で一番ほしかった言葉をくれて、勇気付けてくれた……。

 大事に想ってくれて、いつもいつも。それだけ励まされてたか、言葉が足りないよ……」


 涙が止まらない。

 ぐしゃぐしゃになる顔。

 
 今、立っているのがやっと。

 
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