君色キャンバス
 ふと上を見た。

 そうして手を突き上げた。


 空は馬鹿みたいに蒼で澄み切っていて、手を伸ばせば掴めそうだった。

 照らす太陽の光は眩しくて見るに見れない。

 
 俺の手はどこに向かっているんだろう。

 分からない。


 あの日を思い出せば、俺は自分の弱さに辿り着く。


 くそ。
 思い出すな、消えろ、無くなってしまえ。

 
 ……あいつなんて。
 勝手に溺れて、勝手に自滅した。

 馬鹿だ。
 人間なんて優しさや清らかさで生きていけるとでも思ってたら大違いなんだ。

 そんなもの人間が持つ裏の感情では何も役に立たない。


 
 俺はもう透明にはなれなくて、掴めれそうな空にも本当は掴めなくて。

 そんな真実、知っていた。


 知っていて、信じてみたくなった。

 中野の詩にはそんな馬鹿みたいな事も、信じたくなるくらいの想いがあったんだ。
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