君色キャンバス
「じゃあ何で? 絵が嫌いなら何でそんな綺麗な絵が描けるの?」

「知るかよ、お前の詞が俺の頭の中に入ってきた瞬間、手が止まんなくなって……気づいたら、描き上げてるんだよ!!」

  
 何でこんな言葉を言ってるんだろう。

 俺を中野はただ表情も変えずに、ずっと見つめていた。

 その目には何を思っているのか。

「……私ね、ずっと嫌いだった絵があるんだ」

「え?」

「その絵は真っ暗な闇に包まれて、赤紫の月が不気味な色を闇の中に照らしてる、そんな絵なの」


 俺はその絵を知っていた。

 アイツの絵だ。


 知っていて知らないふりをする。


「お前はその月がどんな風に見えたんだ?」

「これって……もしかしたら、心なんじゃないかなって。誰もが持っている心の空の中」

「だとしたらお前も染まるんだろうな、黒に」

 嫌味交じりに言う。

 その言葉に一瞬驚きを見せながら、また平静を取り戻し、

「私は……今でもその絵を見るのがとてつもなく恐いのに、見てしまいたいと思う。あの時見た絵を、今ならどう思うんだろうって。
 でもその絵、もう売れちゃって……どこにもないんだって」

「――その絵、見たいんだ?」

「うん……」

「そう思ってるのならいつか、見せてやるよ」

「えっ?」

「嘘」

 俺はすっくと立ち上がり、踵を返す。

 中野も立ち上がると、そのまま2人で屋上から離れた。


 
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