君色キャンバス
「入っていいよ。玄関の前だと見せれないから」

――見せれない?

 その言葉が気になりつつも、何となく玄関の前で立ち尽くしてしまう。

「あ、あの――」

「何?」

 急に目が合うと思わず逸らしてしまう。

「家の人とか……大丈夫なの?」

 沈黙が走る。

 え、私何か変な事言ったのかな?


 思わず一之瀬君を見ると、遠くを見ていた。

 その表情は前に見た表情とあまりにも似ていて、どことなく不安そうな顔。

 言葉を発していような空気ではなく、私は一之瀬君の言葉を待っていた。

 
 この一瞬が凄く痛かった。

 時間の感覚が段々分らなくなってきた頃、ようやく一之瀬君は「入って」とだけ言い、今度は私も一之瀬君の言葉通りに玄関から家の奥へと入っていく。


 家の中を歩く度に、あまりの殺風景さが目に付く。

 こんな大きな部屋に住んでいて、何もなく、あるのは絵だけ。

 その絵も段々玄関で見た絵とは違って、鬼気迫るようなまるで寒気がしてきそうな絵ばかり。

 この絵の全ては誰が描いたんだろう。

 全てがあまりにも繊細すぎるゆえに、恐くなる。

 
 あの時見た絵と同じような――
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