君色キャンバス
「……中野。前、見ろ」

 その言葉にはっと我にかえると、目の前に広がったのは桜。

 ううん、違う。

 これは桜の絵。

 春の誘いが今にも聴こえてきそうな躍動感と、そして寂しそうに聳え立つ桜。

 白いキャンバスの中に咲く、一本の桜。

 今にも舞い散る桜の舞いが見えそうな絵。

 
 凄いなんて言葉じゃ伝え切れない程の絵だった。

 今まで教科書で見てきた絵のどれよりも輝きを持っていて、この絵こんな所で終わらせてしまっていい絵ではなかった。

「一之瀬君――!」

 
 言葉じゃ、言えない。

 どうしよう。

 
 伝えたい想いが涙に変わる。


「ありがとう……。見せてくれて」

 この絵はきっと生きていく中で私の宝物になる。

 
 一之瀬君、彼方はきっと素晴らしい絵描きになる。

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