君色キャンバス
 本気でそう思ったんだ。

 だけど一之瀬君はその絵にいきなり赤い斑点を落とした。

 まるで血のようなどす黒い赤色を余すことなく落としていく。


 一瞬で染まる、血の桜。


「お前はこの絵を見ても、俺の絵を綺麗だと思えるか……?」

 語尾が震えていた。

 その目には、何が見えているのか。


 一之瀬君は……私とは違う。

 それは前から分かっていた。

 
 その“違い”はもしかしたら私との世界観だったのかも知れない。


 この絵は一之瀬君の心、なんだ――。


 凛として前を見据えていた桜は一瞬にして血の惨劇へとかす。

 その吐き気さえ感じる寂しさは、一之瀬君がもっている“何か”。

 それはとてつもなく激しいものなんだ。


「私は――この絵の世界観には棲めない。だけど……この絵は私が探してる絵に似てる。

 一之瀬君の絵は最高に綺麗だけど、どことなく不安げで儚いの。

 それゆえに惹かれる……」

 そう言いかけたとき、一之瀬君が言葉を遮った。

「俺はっ……!
 俺は……もう失ったんだ。いらないんだ。これ以上何もいらない!

 それなのに俺の手は絵を欲しがる。
  
 どうしたらいいんだよ?!」

 一之瀬君の私とは反対な方向を向いて、体を震わしていた。

 どうしてそんなに絵を嫌うの……?



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