君色キャンバス
揺るぎないもの
カーテンを開くと朝の眩しい太陽の日差しが目がくらんだ。
気がつけば私は時間の感覚をすっかり忘れてしまっていた。
夜通し何もかもが詩だけだった。
手を見ると黒ずんでいる。
視線を手から外し制服に着替える。
鞄の中にさっき丁度書き上げた詩を仕舞い込む。
この詩を見せたい。
他の誰でもない、一之瀬君に。
そう思うと焦る気持ちが私を急かした。
「奈津ー! そろそろ起きなさーい!!」
お母さんの声が扉越しに聞こえる。
私は「はーい」と答え、そのまま自分の部屋の扉を閉め、どたどたと階段を駆け下りる。
いつもなら朝食を摂るリビングを素通りし、玄関へと足を進める。
「お母さ~ん、今日朝ごはんいらないからー!」
「え、ちょっ……待ちなさいっ!」
「説教は帰ってから聞く! んじゃあ行って来ますっ」
お母さんの声が家を出てもなお、響く。
これは帰ってきたらめちゃくちゃ怒られるな。
なんせお母さんの口癖は“三度の飯は必ず摂れ”だもんね。
今時家族揃って「頂きます」とか食べてるのって私の家くらいじゃない。
向かう先はただ一つ。
いつになく私が何かとぶつかっていた。
聞きたいんだ、一之瀬君の一言が。
駆ける足。
走る足が自分の足じゃないみたい。
知りきった家の近くの道も新鮮な気持ちで溢れていた。
この気持ちは何――?