君色キャンバス

 段々と息が苦しくなる。

 元々運動神経なんか私にあるようでないもの。

 それで今、全力疾走。

 無謀な事してるし、明日は絶対筋肉痛になるな、なんて思ってみたり。


 
 学校へ向かう道のゆるやかなカーブを越えると、そこには人の姿が見えた。

 その人は見たことがある。

 私は思わず足を止めた。


「……――一之瀬君」

「……――中野」

 一之瀬君特有の低い声が動悸が激しくなる中で、大きく響く。

 目が、言葉が、重なる。

「あのねっ」「あのさ」

 ほぼ同時に言葉が重なった。

「あ……と、一之瀬君からどうぞ」

「え、あ……いや、中野からでいいよ」

「いやいや……」

「え、どぞ」

  
 譲り合いからおよそ1分。

 2人同時に笑いが毀れる。


 なんで私達、こんなに譲りあってるの。

 
 そう思う気持ちが一之瀬君も通じたのか微笑んでいた。

 その微笑み方をしたのは2回目だね。

 今までに無い、芯からの微笑み。偽りの笑顔じゃない。作り物じゃない。


「俺さ、今まで世界は霞んで見えてた。
 灰色でさ、薄い世界に何も期待してなかった。
 でも……中野に逢えて、その考えは俺の曲がった考えだって気づかされた。

 お前の詩は、染まらない。いや、染まらないんじゃない、染まる事なんて出来ないんだろうな。
 お前自身が持ってる天性の素質がお前を真っ直ぐに進めてくれるんだろうな」

 一之瀬君の言葉は、私を優しく包み込む。

 大切なもの、失わないもの。
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