君色キャンバス

 すうっと息を吸い込む。

 木々に揺れが耳に響く。

 私はさっきしまい込んだ1枚の詩を読み上げる。

「月と私

 風の舞いを知っている


 涙なんて馬鹿みたいだら 見せたくない

 涙の中に届く 

 心は時を刻む

 
 届かないから書き捨てるの 

 迷いたくないなんて そんなの嘘

 真実は何? と呟きたくなる自分の弱さを掻き消してしまう

 
 ただあなたを信じてみたい」


 ああ、もう私は“終わった”。

 読み終えたら、力が急に抜け、そのままガクンと足が倒れる。

 そう思った瞬間一之瀬君が私の目の前に手を差し出す。

 その手を握り返すと、私を立ち上がらせてくれた。


 立ち上がれた瞬間、私を一之瀬君は抱き締める。

 私の身長を悠々と越えている一之瀬君に私はすっぽりと収まった。


 一之瀬君の体が震えている。

 私も一之瀬君をぎゅっと抱き締めると、その震えが収まった。


「側に居て欲しいんだ、中野」

 
 ああ――一之瀬君の全てが愛しい。

 この気持ちはきっと――“好き”

 
「私も一之瀬君に側に居て欲しい」


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