君色キャンバス

 一之瀬君が変わらず呆れ顔。

 そしていつの間にか一之瀬君の家に着いていた。

 一之瀬君が玄関を開けると、またあの独特の感覚が私を襲う。


「俺さ、母親も父親もいないんだよ」

「――え?」

 そういえばプリント届けに来た時も誰も居なかった。

 もしかしたらとは思ってはいたけれど、やっぱりそうだったんだ。

「お前、知らないだろ。家族の絆ってある時は煩わしいものに思えるけどさ、無くなると急に寂しくて不安になる」

 顔を歪める。

 さっきまでの顔が消え去っていた。

 気がつけばまた震えている。

 一之瀬君が私に教えようとしてくれてる事が私の想いを返ることには絶対ならない。

 手を握る。
 
 一之瀬君は握られて少し驚いたようだけど、すぐに私の手を握ってくれる。


「大丈夫だよ、私、平気だから」

 その言葉を聞き、涙を流す。

 私に涙を見せたくないのか、私の手を放して、黙った。

 さっきとは違う沈黙。

「一之瀬君……」







「――俺の父親は母親を殺した」


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