君色キャンバス
その質問はどれだけ重みのあるものなんだろう。
一之瀬君を守りたいと思ったあの日から、変わらない私のキモチ。
「大好きだよ。
お父さんを変えてしまったものは私にも分からない。
でもきっとお父さんは一之瀬君やお母さんを愛していたと思う。
綺麗事を言ってるだけかも知れない。
だけど一之瀬君はお父さんを恨んでも何も出てこない。
一之瀬君は一之瀬君でしょ。
お父さんじゃない。
じゃあ一之瀬君は絵を捨てきれるの?」
今度は私が尋ねる。
その答えは分かり切っていた。
だけど私は聞きたい、一之瀬君の口から。
「俺は絵を失えない。俺の手から溢れる絵がある限り」
「その言葉だけで、一之瀬君は一之瀬君だよ……」
語尾が震えながらも、優しく微笑む。
私は微笑んだ途端、涙が溢れて止まらない。
一之瀬君に背負わされたものの大きさがあまりにも大きすぎる。
言葉が拙い。
もう少し一之瀬君に伝えれる言葉があったら、どれだけ救われるんだろう。
どうして私はこんなにも無力なんだろう。
涙、涙、涙。
溢れる言葉を掻き消してゆく。
私のそんな姿を見た瞬間、一之瀬君は部屋の奥に消えて大きなキャンバスを持ってきた。
そして見せてくれた――絵。
「題名は、“白”」
色は真っ白の中に小さな手がある。
その絵が蒼を掴もうとする。
周りには降り積もった雪と淡い桃色の風。
「……この絵……」
「覚えてる? 中野が見せてくれた詩の“蒼の手”だ」
知らなかった。
一之瀬君はこんなに私の気持ちを分かってくれていたんて。
銀世界、そして後に訪れる春の優しさが蒼に染めて、小さく開く手が見守っている。
「優しい詩から生まれたんだ、この絵は」