君色キャンバス
 
 けれどもやっと俺は全てを中野に打ち明けられた気がする。

 もしかしたらこの先中野を傷つけるような事があるような気がしてならない。

 幸せだ思えば思うほど、その幸せの後にくるものの大きさに身震いさえ覚える。

「一之瀬君」

 その声にはっとして後ろを振り返ると、顧問の篠原(しのはら)先生だった。

「君はやっと美術部に入る決心をしてくれたようだね」

 オッサン臭い容姿と、少し歯が浮くような台詞を堂々と言える篠原先生から実は入学当初から俺は入部を薦められていた。

 それをことごとくふりきって、もう高校1年も終わりにさしかかろうとしている時に入部。

 時間はかかったけれど、心は穏やかだ。

「君の才能は知らないが、きっと素晴らしいんだろう。
 
 僕は君のお父さんの絵も好きだったからな。
 こうやって息子さんの君がこの高校に入学した時は凄い驚いたのと同時に、絶対一之瀬君の絵を見ようと思っていた」

「あの……。
 父を知っているんだったら父と比較しないで下さい。

 俺は父のような絵は描かない。
 俺は父の絵に染まらない!」

 その言葉にキョトンと俺を見つめる。

 そして笑うと、俺の肩をポンポンと叩く。

「これは失敬。
 一之瀬響君らしい絵を頼むよ」

「はい」

 俺はわざわざ父と比較なんてされる為に入ったんじゃない。
 
 好きな絵を描く為、そして中野にこれ以上を負担を掛けない為。

 何よりも自分自身で描く絵をまた取り戻すためだ。

「じゃ、手始めに最初はクロッキーでもしてもらおうかな。
 対象物はそこのリンゴだ」

 言われるがままに俺は入れていたスケッチブックを取り出した。

 その瞬間、篠原先生に「見せて欲しい」と言われたので、俺は躊躇いがちに差し出す。

 一通り見終え、俺にスケッチブックを返すといきなり怪訝な顔をしながら

「…………君は……」

「え?」
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