君色キャンバス
俺が今から描こうと思っているのは、火だった。
燃える炎で家さえも焼き尽くしてしまう程の威力を持つ。
だけど俺が今から描こうとしているのはそんな炎じゃない。
優しく旅人を癒すような、暖かい炎だ。
今までにない色使い。
家にある絵の具も結構あったけれど、やっぱり部活となれば様々な色がある。
でも色を使い過ぎるのは絵がかえってごちゃごちゃする。
俺はこの絵を誰かに受け入れてもらわなくてもいい。
ただ一瞬でもいいから、父とは違う絵を見せてやりたい。
そんな想いをぶつける。
でも俺には父以上を越える想いがある。
中野が確かに存在している。
「……俺は……」
そう言い掛けて言葉を止める。
絵を描き始めると時間の感覚が全くない。
さっきから俺の絵を見ている篠原先生でさえも、気にならない。
ただ感じるのはこの絵にくすぶる俺の全てだった。