君色キャンバス
 たじろむ私とは全く正反対に、ぐいぐい恋愛を進行さえようとする菜穂。

 てか、行くとこってどこに行く気なんですか。


 完全に私は菜穂の発言に動揺を隠し切れず、顔が真っ赤になった。

 そんな会話をしているのが一之瀬君だけには知られたくなくて、私は気がつけばさっきからちらちらと一之瀬君を見てしまっている。

 そんな様子を悟ったのか菜穂は更に追い討ちをかけるかのように「絶対だよ」と、念押して私に告げ、満足したかのように自分の席へとつく。

 
 なんだかため息をこぼさずにはいられなかった。

 
「――大丈夫か?」

 聞き慣れた、低い声。目は奥二重の彼。

 そんな一之瀬君が私との目線の高さを合わして、屈んで私を心配そうに覗き込んでいる。


 さっきとは違う動揺にかなりパニックを起こしそうだった。

 こんな至近距離。
 しかもあの話の後。

 私は更に体のどこもかもが上昇していくのがわかった。

「だっ大丈夫!! 大丈夫、大丈夫!!」

 かなりのぎりぎりでそう答えると、一之瀬君は柔らかな笑みを浮かべ、

「ダブルデート、別にいいよ?」

 そう言ったのだ。


 なんでその話を知ってるのか。

 そう言いたいのだけと、口がパクパクとするだけで声には出なかった。


 つまりは一之瀬君はさっきの話を聞いていたのだ。

 その事実が更に私の恥ずかしさを煽った。


「また今度、詳しい話聞かせて」

 そう言い残して丁度都合よくチャイムが鳴った。


 慌しく座りだすみんなを目にしながらも、全然頭には入らなかった。
 


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