君色キャンバス
 やがて始業のチャイムが鳴り、慌しくみんなが自分の席へと座る。

 その瞬間そっとまたルーズリーフを取り出した。

 そして授業が始まりと同時に、ノートをとるフリをしながら、シャーペンでまだ詩を書く。

 きっともう、屋上には当分の間は行けそうもないから。

 ほんとついてない。
 ついてないっていうもんじゃない。

 屋上は私の唯一の居場所だった。

 教室も、部室も、全て誰かにとられていて、気持ちが集中出来ない。

 詩を書く時は誰もいない所で、心のままに書き綴るのが私のスタイルだったのに。

 それさえも出来なくなった今は、授業でしか気持ちをまとめることが出来なくなっていた。


  
 いつものようにシャーペンで書いていく。




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 透き通った世界に 混ざり合う一つの黒が

 白を巻き込み 灰色となり

 色をぼかしていく

 
 そっと触れた瞬間

 
 もうあの日の面影はなく 

 自らの熱で溶けてゆく


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 駄目だ、この詩は。

 書き綴った詩は、本当に心のままだった。

 今の現実を詩にすると何だかやっぱり、気持ちが落ち着いていない。
 
 
 ……詩を書くという事は、案外難しいな。

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