君色キャンバス
 ゆっくりと屋上を後にする。

 屋上の扉を閉めた時、何かが俺の中で“始まった”気がした。

 
 階段を降り、文芸部の部室が見えた。

 放課後だけあって、部室の周りは異常なほど静かだった。

 活気がないのは元々だけど。

 何だかその活気の無さも無性に懐かしく思えてきた。

 
 中野は今、この部室でまた詩を書いているんだろう。

 そう思うとこの部室が愛しく思えてくる俺は、なんて恥ずかしい奴なんだろう。

 好き過ぎてどうしようもない俺は、こんな姿、カッコ悪くて中野の前じゃあ見せられない。



「――一之瀬君?」

 不意に静かな廊下に響いた声。

 聞き慣れた声。

 振り向かなくても、分かる。

 この声は……やっぱり中野。

「なんで部室の前に立ってるの?」

 不思議そうに聞く中野のを前にして、俺は予想以上に恥ずかしくなった。

 次第に頬が紅潮していくのが俺の中で分かった。

 
 今、中野の目が見れない。

 てか俺、顔が赤くなってるはず。


 見られたくない――!!


 咄嗟に出た行動は中野を抱きしめてしまう結果になってしまった。

 本当、どうにでもなれって思ってしまう。



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