君色キャンバス
俺の予想外の行動に中野の体が硬直しているのが分かった。
俺だって突拍子もない行動をして、恥ずかしくて死にそうだ。
はたからみたらもの凄く恥ずかしい場面だと思う。
自分でも引っ込みのつかなくなった状況の始末が見つからず、ただただ中野を抱きしめてるだけ。
俺はきっと君以外をこんなにも想えることは出来ない。
君の詞(ことば)に、
君の姿に、
――君の心に。
それでも確実に現実は俺を不安にさせるから。
「……何か、……あった?」
それは聞こえるか聞こえないかの小さな声。
俺は何だかその言葉に“何か”が見つけられそうで、中野から離れた。
「――どうしたの? 何か、あった?!」
再び質問する中野の眼は真剣だった。
きっと俺の言葉次第では中野を不安にさせてしまう。
これ以上、中野に迷惑をかけたくはない。
「俺、絵描くって決めたから」
「え?」
「俺の絵、コンクールに出すだろ?
そしたらもう二度と絵の世界からは逃げれなくなるってさ」
俺の言葉をしっかりと聞く中野の眼は俺の眼を離さなかった。
何かを考えてるかのようにじぃっと見つめ、そして頬が緩んだ。
「良かったね、おめでとう!!」
「……え?」
「ずっと、描きたかったんだよね。
やっと……描けるんだもん、頑張って!!」
笑顔。
その笑顔は少し寂しげにも見えた。