君色キャンバス

 俺の予想外の行動に中野の体が硬直しているのが分かった。

 俺だって突拍子もない行動をして、恥ずかしくて死にそうだ。


 はたからみたらもの凄く恥ずかしい場面だと思う。

 自分でも引っ込みのつかなくなった状況の始末が見つからず、ただただ中野を抱きしめてるだけ。


 俺はきっと君以外をこんなにも想えることは出来ない。

 君の詞(ことば)に、
 
 君の姿に、
 
――君の心に。

 
 それでも確実に現実は俺を不安にさせるから。


「……何か、……あった?」

 
 それは聞こえるか聞こえないかの小さな声。
 
 俺は何だかその言葉に“何か”が見つけられそうで、中野から離れた。


「――どうしたの? 何か、あった?!」

 再び質問する中野の眼は真剣だった。

 きっと俺の言葉次第では中野を不安にさせてしまう。


 これ以上、中野に迷惑をかけたくはない。


「俺、絵描くって決めたから」

「え?」

「俺の絵、コンクールに出すだろ? 
 そしたらもう二度と絵の世界からは逃げれなくなるってさ」

 俺の言葉をしっかりと聞く中野の眼は俺の眼を離さなかった。

 何かを考えてるかのようにじぃっと見つめ、そして頬が緩んだ。

「良かったね、おめでとう!!」

「……え?」

「ずっと、描きたかったんだよね。
 やっと……描けるんだもん、頑張って!!」

 笑顔。

 その笑顔は少し寂しげにも見えた。






< 84 / 210 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop