君色キャンバス
家の近くにある喫茶店へと入った。
そうして俺を掴んで半ば強引にここに連れてきた榊原さんは、ブラックコーヒーを勝手に頼んで何も言わずに飲んでいた。
喋らない理由を俺はなんとなく理解していた。
「俺、絵、描きますよ」
「お前、青臭いな」
「どういう意味ですか、それは。
いい意味で? 悪い意味で?」
「馬鹿か、そういうのは自分で考えろ」
「そうですか」
再び榊原さんはブラックコーヒーを口に含み、カップから手を離し、
「再び絵を描く理由は?」
単刀直入に聞く榊原さんに少したじろみながらも、
「――絵を好きだって言ってくれる人がいるからです」
「その人がお前の中でどういう意味で深くなっているかはあえて聞かないが、そういう感情でこの絵の世界に飛び込むのはやめろ」
落ち着いた声で、俺の目を見る榊原さんの視線に怯む。
「お前の“父親”はそういった感情で自滅していったんだ」
「それってどういう意味ですか?!」
思わず身を乗り出して、必要以上に声を張り上げてしまった。
一気に集中する視線さえ気にならないくらい、榊原さんを見つめた。