君色キャンバス

 それでも無我夢中で発した言葉に偽りなんかない。

 今の気持ちを全て吐き出した気がして、一気に脱力した。

 緊張の糸が、解けたようにも思えた。


 榊原さんは最後のコーヒーを口に含み、そこから立ち上がってその会計を済ませ、再び戻ってくると「後悔、するなよ」と強く言い放つ。

 俺はその問いに躊躇うことなく「はい」と答えると、榊原さんが一瞬だけ微笑むと、喫茶店から出る。

 その後を追うように、俺も喫茶店から出た。


 

 さっきまで夕焼けだった空が、夜空へと変わっていた。

 相変わらず冬の時間の変わり様は早い。

 時計を見ればまだ5時だというのに、この暗さといったらまるで深夜みたいに思えて。

 
 星が夜空を照らしていた。


「来月にコンクールの入賞式があるから、楽しみにしとけ」

「え?」

「じゃあな」

 踵を返し、そのままバイクに跨ると爆音を鳴り響かせて、夜空へと消えていった。


 ほんと、榊原さんは自由な人だ。
 心底そう思う。



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