君色キャンバス

 文章なら長々しく語れば、大体は伝わる。
 
 詩は自分の想いを短文で書かなくてはならないから、自分だけにしか伝わり難い詩になりがちだ。

 私はその詩を机の上に置いた。

 その瞬間一之瀬君と目が合った。

 私はばっと目を逸らす。


 やがて終了のチャイムが鳴り、私は逃げるかのように教室を出て行った。

 あのルーズリーフを置き去りにしたまま。

 
 教室の出た所にすぐある窓の外を私は見ていた。

 特に何かを見たいとも思っていないのに、どことなく心が重かったから。

 そして予鈴がなり、私は慌てて教室に駆け込む。



 さっき書いた詩が無くなっていた。

 さっきまでちゃんとここに置いていたはず。

 キョロキョロと辺りを見る。

 一之瀬君の方を見ると、じいっと読んでいる。

 
 何で……――?


「……その詩」

「何、これ?」

「うん」

「昨日言おうと思ってたんだけど、言い忘れ。俺さ、中野の詩が好きなんだ」

「え?」

「屋上から白いルーズリーフが降って来て、その何枚かが俺の目の前に落ちて読んだ瞬間、何かが弾けた。中野の才能は全校が証明してる」


 チャイムが鳴る。

 またさっきと同じ光景が目に広がった。

 私はさっきの一之瀬君の言葉が頭から離れなかった。

 ぐるぐる回って何が何だかよく理解できない。
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