君色キャンバス

「……逢いに行けばいいじゃん! そんな風に想うなら、いっそ」

 いきなり叫ぶように張り上げた声に、私は肩を震わす。

 北村君は怒りを感じていた。


「……行かないよ」

「何で?!」

「だって……今は、私……邪魔なだけだから」


 一之瀬君の絵を描いている時の集中力は、誰も寄せ付けられないようなオーラを放っていて、自分の世界に居る。

 ここからはきっと私には立ち入り禁止区域。

 そう思わせる威力が確かに一之瀬君にはある。


「そんなの、ただの自分自身の考えじゃん。

 行けば、そこに入ればっ! お前もあいつと同じものが、見えるかも知れないのになんでっ……」

 そう口走った北村君の口を私は思わず手で覆った。

 北村君は驚いた目で私を見ている。


「黙って、黙ってよ……!!」


 多分、蚊の鳴くような声だったと思う。

 もしかしたら北村君には聞こえていないかも知れない。

 それでも私を行かせるような言葉は言わないで欲しかったの。


 手が次第に緩んでいく。

 北村君の口を覆っていた手は、いつしか放れていた。


 そして変わりに私の頬には涙が止まらず、溢れて来た。



“行かないで”

“進まないで”

 
“私の隣で一緒に居てよ”

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