君色キャンバス

 久々に向かう美術室は異様なほどの静けさだった。

 
 美術室に来たのは、篠原先生が俺を呼んでいたからだ。

 
 それにしても学校に来ても最近は真面目に授業さえ受けていないせいで、妙に懐かしく感じれた。

 この部室からは文芸部の部室も見える。


 中野は相変わらず部活に来ているんだろうか。

 思わず部室へと目を向ける。


 その瞬間、俺は自分の目を疑ってしまった。


「…………中野?」

 中野が、他の誰かと抱き締めあっている。

 その現状に目を見開く。


 遠目がちに見える中野の目は少し赤くなっているように見えた。

 もしかしたら泣いた跡なのかも知れない。


「一之瀬君」

 呼ばれて振り返ると篠原先生が満面の笑みだった。


「おめでとう!!」

「……え?」

「一之瀬君の絵が受賞したんだ!!」


 興奮気味に語る姿に俺は至って冷静だった。

 これから始まる世界が俺にとってはきっと孤独に打ち勝たなくてはならない道だと理解しているからだ。


「明日、新聞の一面に一之瀬君のことが特集される。

 そうしたらきっと君は一瞬で時の人となるだろう」

「ありがとうございます」


 偽わりの笑みをうっすらと浮かべ、俺は感情の矛盾に気持ち悪さを感じる。

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