君色キャンバス
小さい頃、俺は父と呼べる人に「絵描き」になることを約束した。
たた純粋に絵が好きだった。
けれども今、自分自身が掴もうとしているのは昔の俺が夢見ていた「絵描き」とは全く違う。
後ろ指差されても、批判されても罵倒されても、あの父を越えるために描かなくてはならない。
篠原先生の視線に気づき、俺は視線を逸らした。
「きっと君なら未来を変えるだろう」
聞こえた一言。
「……え……?」
「きっと君を待っている人は何人だっている。
だからその人達に全て捧げる努力をしなさい。
君の才能はいつだって可能性に満ち溢れていて、それを生かすも殺すも君次第なんだ」
きっと先生は今の俺の感情を読み取ったわけじゃない。
でも俺の中で沸き立つ感情に上手く制御され、ふっと和らいだ。
「先生の中の幸福って何ですか?」
「僕は……、“今”を生きること」
「…………え?」
「日常にありふれる全てのものに感情を揺らいでいるときが生きているから」
「そんなに単純なことですか?」
「ああ、単純さ」
そう言い切る先生の姿に俺は圧倒された。