柚時雨


 俺は、かなり慌てた。



 漆黒の艶めいた長い髪に

 白い肌、紅い唇。

 透き通る硝子玉のように大きな瞳は

 俺を捕えて離さない。





 一瞬にして、俺の心は奪われた。






 「…何してるの?」


 彼女が俺にそう問い掛けて

 俺は我にかえった。



 「あっ、いや……。
  しゃぼん玉、懐かしいなと思って」


 「そうですか…」


 俺がとっさにそう言うと

 彼女はあの容器を見つめ、呟いた。

 本当に、気品溢れる雰囲気だ。



 「これ、君の?」


 俺があの容器に目をやると

 彼女はコクリと頷いた。



 「……宝物なの」

 彼女はそう呟くと

 容器から目線を外した。

 そして、空を見上げた。




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